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3Dプリンターでモノ作りに革命を起こす、カブクの仕事とは

モノ作りに3Dプリンターを活用したい企業や個人クリエイターに対し、クラウドベースのデジタル製造技術ソリューション「Rinkak」を提供するカブク。目まぐるしく変化する先端技術と向き合いながら、開発を続ける同社のやりがいとは何か? 同社CTOの足立 昌彦氏(@adamrocker)(写真中央)、Rinkakのサーバーサイド開発担当の高橋 憲一氏(写真右)、フロントエンド開発担当の和田 拓朗氏(写真左)にお話を伺った。

技術で面白いことをやる会社を目指して

そもそも、カブクが3Dプリンターに注目し、それに特化したソリューション事業を開始したのはなぜか。CTOの足立 昌彦氏は、当時のことを次のように振り返る

「カブクは2013年1月の設立ですが、そのとき社長の稲田と話していたのは、『技術的に面白いことをやる会社にしよう』ということでした。ちょうどそのころホットだったのが3Dプリンター。個人でも手の届くようなものが登場して注目を集め始めたころでした。3Dプリンターを使えば従来になかった新しいモノ作りができる、そう感じている人たちが大勢いるわけですが、技術的なハードルが高くて誰もが簡単に使えるようにはなっていません。そこで、3Dプリンターをモノ作りに活用したい人たちをサポートすることを会社のミッションにしたんです」(足立氏)

そして開発されたのが、クラウドベースで提供されるデジタル製造技術ソリューションの「Rinkak」だ。3Dプリンターだけでなく、3Dスキャナーなどの入力装置も含めたエンドツーエンドのソリューションである。クラウドベースなのでITインフラなしで導入でき、全国の拠点にサービス展開したり、コンシューマ向けのインタフェースを用意したりするにも使い勝手が良い。Rinkakを使った事例としては、3Dスキャンからフィギュア製造販売までを一貫した管理システムを利用した「ロフトラボ3Dフィギュアスタジオ」やトヨタの一人乗りビークル「i-ROAD」のカスタムパーツを作る「OPEN ROAD PROJECT」などがある。

「工業用の3Dプリンター(付加製造装置)は、当初は工業デザインにおけるラピッド・プロトタイピングなどで使われ始めましたが、現在では製造技術が向上したことに加え、金属やセラミックなど樹脂以外の素材も使えるようになり、一品物の完成品を3Dプリンターで製造することも可能になっています。素材や機械が進化することで、活用の幅はどんどん広がっている。そのお手伝いをすることで、私たち自身も技術的に新しいこと、面白いことにチャレンジできるわけです」(足立氏)

高度な3D技術をクラウドで手軽に

Rinkakの中核となるのは、サーバーサイドで動作する3Dモデル解析エンジンだ。高橋 憲一氏は、その開発を主導する中心メンバーだ。

「エンジン部分は、入力されたモデルデータを解析する、3Dプリントできないデータであれば補修する、出力結果のプレビューをレンダリングする、といった機能を提供します。例えば、コンピュータ上では成立するモデルデータも、実際には細すぎて3Dプリンターでは出力できないことがあります。解析部分には、そうしたデータが入力されたときにアラートを出すといった機能も含まれます」(高橋氏)

高橋氏はこれまでも3Dグラフィクスプログラミングの仕事をしていたが、3D以外の仕事が続いたときに本当に自分がやりたいことは何かと自問して、カブクへの転職を決意したという。

「Facebookで『最近Z軸に触れてないなぁ』とつぶやいたら、それにAndoroidコミュニティで付き合いのあった足立さんが反応してくれたんです。それがきっかけで、今は3D三昧の毎日というわけです(笑)」(高橋氏)

エンジン部分の開発で高橋氏が特にこだわっているのがパフォーマンスだという。

「ユーザーにストレスを感じさせないためには、たとえ100MBを超えモデルデータが入力されても、即座に結果を返す必要があります。その点、必要に応じてスケールできるクラウドは有利ですが、プログラム自体にボトルネックがあるとコンピューティングリソースを増やしてもスケールしません。そこで、高度なパフォーマンス・チューニングが行い易いことから、開発言語にはC++を採用しています」(高橋氏)

高橋氏のスキルには足立氏も太鼓判を押す。

「私もコンパイラなどの研究をやっていたので最適化については詳しいほうだと思いますが、高橋さんのパフォーマンスへの追求には舌を巻きます。彼がチューニングを行ったことで、Rinkakはレンダリング・スピードが50倍も速くなりました。この分野では間違いなくトップクラスの開発者でしょう」(足立氏)

スタッフの自由な発想でビジネスを拡大

一方、和田 拓朗氏が担当するのは、Rinkakのフロントエンド開発だ。

「フロントエンドでは、Rinkakのエンジンを使ったアプリケーションを開発します。サイトからユーザー向けインタフェース、エンジンとのインタフェースなどですね。主にお客さんの要望に合わせて開発するわけですが、クリエイターから上がってきた要望を基本機能として実装することもあります。また、カブクは度量が大きい会社なので、『こういうものを作ってみたい』と申請すれば、わりと自由に個人プロジェクトとしてやらせてもらえます」(和田氏)

和田氏や他エンジニアが個人プロジェクトとして開発したアプリケーションには、立体地図を出力する「でこぼこ地図」や顔写真をダビデ像などの有名な彫刻の顔にマッピングして出力する「Rinkak 3Dコラージュ」などがある。また他にも現在開発中のアプリケーションが複数ある。こうした個人プロジェクトの意義について足立氏は、次のように説明する。

「個人プロジェクトは会社の持ち出しになるわけですが、Rinkakを使ったアプリケーション開発のショーケースとして役立っています。実際、企業顧客の中には、そうしたアプリケーションを見て問い合わせてきたことからお付き合いが始まった会社さんもあります」(足立氏)

和田氏は、社長の稲田氏と大学院時代の先輩後輩の関係にあり、その縁からカブク設立の約1年後に入社した。試作品の制作に人体の3Dデータが必要なとき、和田氏や他のエンジニアは稲田氏のスキャンデータを利用することが多いそうだ。

「稲田さんは気さくな方なので良い意味で“いじり”やすいですね。オブジェにマッピングしたりして、よく皆で楽しんでいます(笑)」(和田氏)

バーチャルからリアルが生み出される感動を

カブクのスタッフは、3Dプリンターやデジタル製造技術の面白さをどんなところに感じているのだろうか。

「私は3Dグラフィックスの仕事をずっとやってきましたが、それまで画面の中だけで存在したものが、3Dプリンターを通して目の前に具現化されて出てくるとそれだけで感動します」(高橋氏)

「それは誰もが感じることだと思います。私もコンピュータについてはいろいろやってきましたが、モノ作りは趣味レベルでしかなかった。そんな素人が3Dプリンターが登場したことで、モノ作りに深くコミットできるようになったわけです。しかも従来の製造技術では作れなかったものが作れる。こんな楽しいことはめったにありません」(足立氏)

「私は3Dデータを自動生成するプログラムを趣味で作っているのですが、そのデータを出力すると自分でも意図していない形が飛び出してきて面白いですよ。『思い通りのものが作れる』ことも重要ですが、『思いもしなかったものが作れる』のも、デジタル製造ならではの楽しさだと思います」(和田氏)

「素材や3Dプリンターの進化が間近で見られるのも、興味が尽きないところです。例えば、もしカーボン素材など高強度素材が使えるようになったら、競技用自転車のフレームをユーザーの体に合わせて生産するといったことも容易になるでしょう。樹脂素材では強度の面で使えなかったカスタムパーツなどの領域もカバーできるようになります」(足立氏)

「複合素材への対応にも期待したいですね。今でも複数の素材を使える3Dプリンターはありますが、素材の種類や組み合わせに強い制限があります。例えば、絶縁素材と導体素材が同時に扱えるようになったら3Dプリンターで回路が作れる。使いみちがグッと広がるでしょう」(和田氏)

「もちろん、素材や機械が進化するだけでなく、Rinkakもどんどん進化させていきます。解析精度をもっと高めたいですし、素材を指定したらその質感がレンダリング結果に反映されるようにもしたい。機能を増やして動作が重くなっては使い心地が悪くなってしまいますから、今以上にパフォーマンスも向上させたい」(高橋氏)

「Rinkakは、コンポーネントをもっと疎結合にしていきたいですね。そうすれば、今よりもっと汎用性が高くなって、アプリケーション開発もしやすくなる。やりたいことはたくさんあるので、一緒に楽しみながらやってもらえる人が来てくれると嬉しいですね」(足立氏)

今回、3氏にお話を伺っていて強く感じたのは、和気あいあいとした雰囲気の中で「仕事をとことん楽しんでいる」ということだ。世間には趣味を仕事にしてはいけないと言う人も多いが、生粋の技術好きにはその言葉は当てはまらないのかもしれない。

取材・執筆:森 英幸

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