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機械学習にビッグデータはいらない。少量のデータから人間の機微を読み取って判断する人工知能でUBICが目指す未来とは

株式会社UBIC 最高技術責任者(CTO) 行動情報科学研究所 所長 武田 秀樹 氏

“コグニティブ”や“ディープラーニング”といったキーワードに象徴される人工知能が注目されている。これらの多くの技術は「ビッグデータを解析することで得られた知見をもとにマイニングや機械学習を行う」というアプローチから生まれたものだ。裏を返せば、大前提となるビッグデータが整備できていなければ課題解決には至らない。

これに対して、現実の業務上の課題と向き合うなかから誕生し、実用化され、実績を上げてきた人工知能がある。限られた少量のデータのなかからも人間の機微を読み取って判断を行うUBIC独自の人工知能エンジン「KIBIT(キビット)」がそれである。

今後UBICでは、多彩なバックグラウンドを持ったエンジニアを集め、KIBITをベースとした人工知能のアプリケーション開発をさらに積極的に進めていく計画だ。その戦略を指揮するCTOの武田秀樹氏を訪ね、「コンピュータが人間をより深く理解する時代」を見据えたビジネスのビジョンと、そこで求められる人材像を伺った。

(追記:2016年7月1日、株式会社UBIC は「株式会社FRONTEO (フロンテオ)」に社名を変更しました)

訴訟支援の取り組みから生まれたUBICの人工知能

2003年にUBICが創業した目的は、e-ディスカバリ(電子証拠開示)と呼ばれる米国独自の訴訟制度に対応したソリューションを提供することにあった。 e-ディスカバリとは、特許侵害などの民事訴訟が起こった際に、当事者同士がその事案に関係するあらゆる電子文書をお互いに開示しあい、陪審員による裁判に臨むというものである。ただ、この制度に不慣れな日本企業にとって対応は容易なことではない。開示された電子文書を双方の弁護士が読み解き、不正行為や情報漏えいの証拠を特定(フォレンジック)していくわけだが、電子文書は膨大な量となることから巨額の費用がかかってしまうことが大きな問題となり、多くの企業が訴訟で苦戦を強いられていた。

そうした日本企業を支援すべくUBICは、日本語に対応したフォレンジックツールの独自開発に乗り出したのだ。この取り組みはUBICの大きな成長を支えるとともに、新たな事業創造を促す原動力となった。その中心にあったのが“人工知能”の技術なのだと、武田氏は語る。

「膨大な電子文書から、どうやって簡単かつ迅速に証拠を探し出すことができるかという課題を解決するため、私たちは機械学習やテキストマイニング、自然言語処理などの人工知能の研究を重ねてきました。その結果、2012年に完成したのが『Lit i View(リット・アイ・ビュー) Predictive Coding』。このエンジンは非常に汎用性が高く、多様な分野に応用していく経営戦略に結び付きました」

こうしてUBICの事業は現在、従来からの訴訟支援のほか、医療、マーケティング、ビジネスインテリジェンス(主に営業支援)などの分野に広がっている。

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少量のデータからも人間の暗黙知を理解

UBICは自らの最大の強みであり、あらゆる事業の核となっている人工知能を「KIBIT」と名付けた。人間の微妙な心の動きを意味する“機微”(KIBI)と、デジタルデータの最小単位である“ビット”(bit)を組み合わせたもので、「人間が持っている暗黙知(経験に基づいた勘や知恵)、判断の仕組み、感覚などを理解する人工知能」に大きく育てていくという決意が、そこに込められているという。

このKIBITは、果たしてどんな独自性を持っているのだろうか。

現在の人工知能研究のトレンドは、“コグニティブ”や“ディープラーニング”といったキーワードに象徴される機械学習にある。その意味ではKIBITも同じ大きな流れのなかにあるのだが、根本的に違っているのは前提とするデータ量だ。

「世の中の多くの人工知能は、ビッグデータを解析することで賢くなっていくことを目指しています。しかし、ビッグデータと呼べるようなラベリングされた大量のデータを、どれだけの企業が所有し、整備できているでしょうか。データを揃えられないことには機械学習が進まないというのでは実用化は困難です。これに対して私たちが軸足を置いているのは、より実践的な人工知能です。たとえ少量のデータしかなくても、そこにある有益な情報に着目し、現実の業務におけるさまざまな課題を解決することができます」

ベースにあるのが、「Landscaping」(ランドスケイピング)と呼ばれる技術である。日本庭園が、小さなスペースの中に世界観を作りこむように、また、外側の世界を借景として矛盾なく一つの世界観としてつなぎあわせるように、少数の教師データの特徴を解析しつくすことにより、未知のビッグデータを判断する。

“本当に気の利いた”レコメンドエンジンの実現へ

具体的にKIBITはどんな分野での実践が進んでいるのだろうか。例えば、NTT東日本関東病院と共同で開発を進めている「転倒・転落防止システム」がある。

現在の医療現場では、高齢化などを背景に入院中に転倒・転落する患者が増えている。このリスクを少しでも減らすために医療機関では、転倒につながる複数の要因を入院時や手術後などのタイミングでアセスメントし、対策を施しているのだが、リアルタイムにすべての患者をフォローするのは不可能に近い。

そこで人工知能を活用し、電子カルテに記された医師の所見や看護記録などの情報をもとに、一人ひとりの患者の転倒リスクを予測できるようにしたいと考えたのである。

「現在、意識障害の可能性がある患者のカルテを抽出し、それを教師データとして示すことで、同様のリスクを抱えている患者をランク付けするといった試みが進められています。一見しただけでは把握できない患者の日々変化していく歩行や認知の能力を、さまざまな記録情報から読み取ることで、このシステムの実用性をさらに高めていこうとしています」

そして昨年11月に大きな注目を集めたのが、レコメンド機能を備えたロボット「Kibiro(キビロ)」の開発計画だ。ヴイストン社が開発したパーソナルロボットにKIBITを搭載し、ネットワーク接続して利用するもので、音声による会話のほか、専用アプリやメール、SNSを通じたやりとりからユーザーの嗜好や行動パターンを蓄積。一人ひとりの好みにあった店舗や商品、サービスを推奨する。

Kibiroは2016年前半にも公共施設や商業スペースなどの法人用途向けに販売を開始することを目指しており、「音声認識や音声合成、質問の解析などの要素技術について、さまざまなパートナーとコラボレーションを進めています」と武田氏は意気込みを示す。

人間が“本来やるべきこと”に専念できる社会を実現したい

UBICが人工知能に注力している理由として、「人間が“本来やるべきこと”に専念できる社会を実現したいという夢があります」と武田氏は語る。

先述の医療機関における転倒・転落防止システムの背景にも、医師や看護師はもっと多くの時間を割いて患者と直接向き合って「大丈夫ですか?」と手を差し伸べたいのに、それができずにアセスメントのデータ入力や整理、解析に追われているという実情があった。そうした煩雑な作業を、専門家の暗黙知を学んだ人工知能が代行することで、人間はより生産的な仕事に従事することが可能となる。

「そのためにも、人工知能のアプリケーション開発をもっと活発化させていきたいのです。研究チームと一緒になって人工知能のエンジンを作る人、アルゴリズムを洗練化して製品に実装する人、お客様の課題をくみ取ってソリューションを開発する人など、さまざまなタイプのエンジニアを求めています」

こうした実践的な人工知能を追求していく意味からは、数理統計などの基礎理論を学んできたバックグラウンドもさることながら、自ら仮説を立てて試行錯誤しながら最適解を導いていく、柔軟な思考力を持った人材が望まれる。

「人工知能のアプリケーションには必ずしも明確な答えがあるわけではなく、開発者自身の考え方が大きく反映されます。したがって、常に当事者になったつもりで多様な現場の課題を理解し、自ら目標を設定できる人材に加わってもらえると力強いです」

コンピュータが人間をより深く理解し、寄り添って支援していく時代を迎え、UBICの人工知能のフィールドはさらに大きく広がろうとしている。 執筆:ノーバジェット

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