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常に「自分がいることで、何かが変わる」場所にいたいと思っています − ユーザーローカル CTO 三上俊輔氏

この連載では、「Forkwell Jobs」の開発にも関わるフリーランスエンジニアの後藤大輔(@idesaku)が、さまざまな企業で働くエンジニアとリレー形式で対談を行っていきます。 前回のスマートニュース、坂本卓巳氏からご紹介のあった第8回のゲストは、ユーザーローカルで CTO を務める三上俊輔氏です。

筑波大学での学生時代には、分散ファイルシステムの研究を専門にされていた三上さん。研究以外にも、筑波大生向けネットサービスの立ち上げや、クックパッドでのインターンなどを経験し、卒業後は半ば「飛び込み」のような形で門を叩いたユーザーローカルに入社。現在は、CTO として技術面での統括をされています。研究分野として、一見地味な「分散ファイルシステム」を選んだ理由、就職先として同社を選んだ経緯、今後のビジョンなどについて、今回も幅広くお話を伺いました。

三上さんご指名のリレー相手は、インタビューの最後でご紹介します!

三上さんと坂本さんが「若手Webエンジニア交流会」のファウンダー

後藤:
前回のスマートニュース坂本さんからご紹介をいただきまして、今回はユーザーローカルの三上俊輔さんにお話を伺います。

三上:
よろしくお願いします。

後藤:
三上さんと坂本さんは、大学時代からのお知り合いだと伺っているんですが、最初に出会ったきっかけは何だったんでしょうか。

三上:
学生時代に参加していた勉強会ですね。Fluentd の勉強会だったのですが、そこに坂本さんも参加していたんです。お互い関心を持っている領域がインフラ系だったこともあって知り合いになりました。

その後社会人になり、彼がディー・エヌ・エー、僕がユーザーローカルに入るんですが、そのころに「同世代のエンジニアと知り合う場を作りたいよね」と話していたのが、現在の「若手Webエンジニア交流会」につながっています。

後藤:
最初は坂本さんと2人でやられていたんですね。この交流会も、ずいぶん長く開催されている印象があります。

三上:
もう10回になりますね。

後藤:
若手やら、若手っぽい人やらが集まっている交流会に、最近では若手じゃない人まで「若手とは」「若手ツブす」とか言いながら参戦していて(笑)、参加者層も厚くなっているようですね。

三上:
あの会を始めたころは、みんな若かったんですよ(笑)。ただ、そろそろ初期のメンバーも中堅に近い立場になってきているもので、引継も含めて、少しずつ今後のことを考えていかなくてはいけないなとは思っています。

Google のアプローチに衝撃を受け「分散ファイルシステム」の世界へ

後藤:
学生時代の三上さんは、どういったことを研究テーマにされていたんですか。

三上:
主に分散ファイルシステムに関する研究を行っていました。筑波大学の教授に「Gfarm」という、オープンソース(OSS)の分散ファイルシステムを開発している方がいたんです。分散ファイルシステムを OSSプロジェクトで作っていくという取り組みは今でもかなり珍しいと思うのですが、ちょうどそのころは、Apache Hadoop が注目を集めていたタイミングでもあって、Hadoop 専用の独自ファイルシステムである「HDFS」の代わりに使える、より汎用性の高いファイルシステムとして「Gfarm」を作っていました。僕は、その Gfarm をどんなふうに使うと性能が良くなるかといったことを中心に研究をしていました。

後藤:
分散ファイルシステムには、データアクセスの「性能」や「可用性」「信頼性」を高めるといった意義があると思うのですが、HDFS のリプレースとしての Gfarm は、どういったところを目指しているんですか。やはり性能面での向上が主な目的なのでしょうか。

三上:
性能面というよりも、データを活用できるアプリケーションの可能性を広げるといった側面が大きいと思います。HDFS も Gfarm も単純なシーケンシャルの読み込み性能では大きな差はありません。一方、以前の HDFS は Hadoop に特化した独特のファイルシステムで、一般的な形でマウントして使うようなことはできなかったんですね。その点で Gfarm は、POSIX に準拠しており、より汎用性が高いものになっています。

後藤:
つまり Gfarm は、雑な比較をしてしまいますが、NFS のようなものだと考えていいのでしょうか。

三上:
おおむねそんな感じです。ただ、単なる NFSマウントだと Hadoop が性能を出せないので、Hadoop側から Gfarm に用意された各種の API を使って、アクセスパフォーマンスを上げていくというようなことを研究としてやっていました。

後藤:
分散ファイルシステムって、いわゆるネットサービスの世界では裏方といいますか、表面的には派手な技術分野ではないですよね。自主的に興味を持ちづらいテーマだと思うのですが、研究としたいと思われたきっかけが、何かあったのですか。

三上:
プログラミングを始めたのは大学に入ってからだったんですが、ちょうどそのころ、梅田望夫さんの『ウェブ進化論』(筑摩書房)を読んで、Google の技術的なバックボーンに関心を持ったんです。世界規模で情報を収集し、クエリを受け付けて結果を返す検索エンジンなんて、旧来の負荷分散や高速化の考え方だけでは実現できなかったわけですよね。非常にざっくりした言い方ですが、例えばストレージアクセスを1,000倍に高速化する必要があれば、1,000台を並列に並べてしまえばいいと考えて、それに近いことを実現してしまうというような Google のアプローチに衝撃を受けたのが最初のきっかけだったと思います。

「ネットでもっといろんなことを」という思いで作った「ツクバイト」

後藤:
筑波大学での学生時代には、研究に加えて、ビジネス方面の活動もされていたと伺っているのですが。

三上:
学部3年のころに「ツクバイト」という筑波大生向けの求人サイトを、友人と2人で立ち上げました。既に営業を譲渡してしまっているのですが、今でも多くの企業さんに使っていただいているようです。

後藤:
「ツクバイト」を作った動機というのは、どのようなものだったんでしょう。

三上:
理系の学生が、プログラミングなどでサービスを作ることに関わりたい場合、東京であれば多くのネットサービス企業のインターン制度などを設けているので、それに参加するという方法があると思うのですが、筑波だと、そういう機会が少なかったんですね。ですので、自分でサービスを作ったというわけです。主に友人がプランニングや営業、僕が開発を担当していました。

後藤:
求人サイトをビジネスとして一から立ち上げたというのはスゴイですね。それがうまくいった理由は何でしょう。普通に考えると、一学生の立場では、求人の掲載企業を集めるのも大変だったのではないかと思いますが、地域での筑波大生に対する信頼が、それだけ大きいということだったんでしょうか。

三上:
……いや、それはあんまり関係ないと思います(笑)。あえて言えば「成功報酬型」にしていたというのがポイントですかね。「採用が決まればいくら」という形で求人を募っていたので、決まらなければお金もかからない。「それなら試しに」と思ってくださった会社さんが多かったんだと思います。

もともとの発想としては「もっと、インターネットでいろいろなことができるようにしたい」というのがありました。2010年当時の話ですが、ネットで集められるアルバイトの情報って、わりとフリーター向けの重めのものが多く、普通の学生がやるような飲食店などでの短時間のものは少なかったような印象があります。

実際にサービスを初めてみると、友達が、自分が作ったサイトでバイト先を決めるのを見て「人の生活に影響を与えているんだ」という実感がありましたね。

後藤:
「ツクバイト」という名前を拝見したとき、最初は「筑波」という地域に特化したサービスかと思ったのですが、「筑波大学」の学生向けなんですね。何となくフェイスブック的だなと思いました。

三上:
ターゲットについては、そのうち広げていくつもりだったんですが、広げると大手に勝つのが難しいと気づきましたね。現在「ツクバイト」を運営しているのは、筑波大学発のベンチャー企業である「クロノファクトリー」というところなんですが、ここは求人情報だけではなく、アパート情報や就活支援など、学生向けの生活サービス全般を提供してビジネスにしているところで、地域特化の強みを活かせる形でやっていますね。

後藤:
「ツクバイト」では、主に開発を担当されていたということですが、バックエンドからフロントエンドまで、全体的に手がけていらっしゃったんですか。

三上:
そうですね。専門はデータベースでしたが、サーバのセットアップもやれば、Rails のコードを書いたり、フロントエンドの HTML を書いたりもしました。この時、サービスの仕組み全体を見た経験は、今に生きていると思います。

自分の「得意」を最大限に生かせる企業として門を叩いたユーザーローカル

後藤:
徐々に、現在お勤めのユーザーローカルに入られた経緯について伺いたいと思います。就職活動に関しては、どのように進められたんですか。

三上:
「ツクバイト」などでの経験を通じて、「インターネットが好き」という思いは以前より強くなり、ウェブやネットに関わる企業でエンジニアとしてやっていきたいというのがベースとしてありました。

ただ「ツクバイト」をやっていて感じたのは、世の中に受け入れられるサービスを作るにあたり、技術だけでできることには限界があるということでした。たとえば「求人サイト」だったら、ユーザーがどのサイトを使うかは「求人数の多さ」でほぼ決まってきます。ユーザビリティやパフォーマンスは、ある程度の水準になってしまえば、差別化の要因にはなりません。

後藤:
たしかにそうですね。

三上:
そんな中で、自分の将来を考えるにあたって、影響を受けたのが「クックパッド」でのインターン経験でした。

自分は、研究の一環として Hadoop に関わっていましたが、クックパッドでは「たべみる」というサービスで、ユーザーの検索情報を企業に提供する事業をやっており、そこで Hadoop を使っていました。自分が研究している技術が、どのような形で社会の役に立っているのかを実際に見てみたかったのです。

クックパッドには、考え方のフレームワークとして「3つの輪」というのがあります。これは、個人として「得意なこと」「やりたいこと」「やるべきこと(会社との接点)」が重なっている部分が、最も力が発揮され、最大の成果が出せるという考え方です。これを自分に当てはめた場合、「やりたいこと」は「インターネットに係わって多くの人に影響を与える」こと、そして「やるべきこと」は「ニーズがある場所に注力して利益を上げられる事業を行う」ことで、どちらもいろいろな企業のそれと一致すると思いました。しかし、自分が「得意」とすることは何だろう、という点だけは不明確だったので、これを真剣に考えました。

言語として Ruby が書けるとか、Hadoop が扱えるというだけでは、得意分野としては「狭い」んじゃないか。そういう短期的なことではなく、長期的に考えたとき、自分にとって得意なやり方とはどういったものなのだろうか。

例えば、ゲームなどのエンターテインメント系を考えたとき、そこにも技術的なニーズはあるでしょうが、最終的には独特の「センス」を持った人が勝つのではないかと思いました。それに、ユーザーの動向に応じて新しいものを次々と作っていくことも必要でしょう。

でも、自分としては、センスを頼みにユーザーにうけるものを作るというよりも、少しずつ技術的な要素を積み上げて全体の仕組みを作っていくことのほうが得意だと感じたんです。これを加えた、自分の「3つの輪」とマッチする企業はどういったところかを考えて、調べる中で、比較的少人数でやっているアクセス解析に関わる企業に絞っていきました。

後藤:
ユーザーローカルは、その条件に合っていたわけですね。

三上:
ユーザーローカルがやっているようなアクセス解析の仕組みは、特定の業界、業種に限らず、あらゆる企業で使えるものです。今後、ウェブ上でのユーザーの動向データを分析して、マーケティングに役立てていこうという領域は絶対に伸びていくだろうと思っていました。だから、これは「やりたいこと」でしたし、「やるべきこと」としても適切だと考えました。

また、ユーザーローカルの場合は少人数で運営していて、その設計の部分から自分で手がけられるだろうという見込みがありました。アクセス解析・データ分析系のサービスは、扱えるデータの規模が大きいこと、かつパフォーマンスが高いことが、競合と比較した場合の大きな優位性になりますが、このように自分の「得意なこと」が成果に直接繋がるという点でも自分に合っていると感じました。

後藤:
先の話にもありましたが、一般的なネットサービスではそこを差別化の要因にすることは難しいですよね。

三上:
ええ。「良いもの」「速いもの」を作れば、ユーザーに選んでもらえ、価値を提供できるサービスになるという点で、自分の「得意なこと」が「やりたいこと」や「やるべきこと」と大きく重なるのが、アクセス解析サービスをやっているユーザーローカルだったわけです。

後藤:
ちなみにその当時、ユーザーローカルでは新卒の募集はされていたんですか。

三上:
いいえ。ホームページにあった中途向けの応募フォームから、直接コンタクトをとったんです。

後藤:
いわば「飛び込み」ですか。それは珍しいパターンですね。

三上:
これ、人に話すたびに驚かれるんですけれど、自分としては当たり前の感覚だったんですよ。「誰かに紹介された」とか「声を掛けられた」とかいうきっかけも、もちろん大切ですけれど、もしそういうきっかけがなくても「自分に合っていて成長できそうだ」と感じた企業があるなら、自分で直接アプローチして、採用について聞けばいいと思うんですよね。

後藤:
このインタビューを受けて下さる方全般に言えることですが、みなさん、就職や進路の決定にあたって、本当にしっかりとした考えをお持ちですよね。自分はもっと適当に就職してしまった気がします。

三上:
大学院に残って研究職を目指すことも並行して考えてはいました。ただ、それは「やりたい」ことではあるけれども、「やるべき」ことか、つまりその分野にどれくらいニーズがあるかを考えると、やはり就職して、企業の中でサービスを作っていくほうが、自分に合っている気がしたんです。

入社早々に手がけた「分析基盤の総入れ替え」

後藤:
ユーザーローカルに入られてからは、どのくらいになりますか。

三上:
5年目ですね。

後藤:
三上さんが入られた当時には、既に事業としてアクセス解析をやっておられたんですよね。つまり、入社当時には分析基盤が用意されていたと思うんですが。

三上:
そうですね。ただ基盤部分については、入社してからごっそり入れ替えました。

入社時期前後に、ちょうど提供しているサービスの大規模なバージョンアップをしようというタイミングがありまして、その際、既存の基盤の上で細かくバージョンアップしていくよりも、今後のことを考えて基盤そのものを新しくしたほうがいいだろうと提案しました。大規模サイトへの対応やスマホ対応といった新しい展開を考えると、パフォーマンス的にも従来の基盤の上では問題が出てくるだろうと感じていたんです。

とはいえ、もちろん既存の基盤を使っている方もいますので、しばらくの間は旧基盤と新基盤を並存させて、双方にデータを送りながら徐々に切り替えを進めました。

後藤:
新基盤の構築と移行については、設計から三上さんご自身でガッツリとやられたわけですか。

三上:
そうですね。

後藤:
私の業務経験からすると、入社間もない若手に、事業のコアとなる部分の構築を任せるというのは、相当にチャレンジングというか、大胆だなと感じてしまいます。そのあたり、会社側が相当に三上さんを信頼しておられるんですね。

三上:
うーん。たしかに「こんなに任されるんだ」みたいにビックリするような場面も結構ありましたね(笑)。もちろん、会社側にもノウハウはあるので、新基盤の構築にあたってどのような方針で進めていくかという点では、合意を得ながら進めていきました。

後藤:
ユーザーローカルで仕事を教えて下さった「師匠」的な方はいらっしゃったんですか。

三上:
Zaim の代表取締役をやっていらっしゃる閑歳孝子さんが、入社当時の最初の上司として、いろいろと教えてくれました。もっとも、私が入社して1年足らずで起業されたので、一緒に仕事をしたのはその間だけだったのですが。ユーザーローカルでは無料サービスも提供していまして、そこで開発しながら覚えていった感じですね。

後藤:
以前ご登場いただいたスズケンさんも、データ分析をお仕事にされていて、その際、自分の仕事の範囲を「データを分析しやすい形に整える“マエショリスト”」だとおっしゃっていたのですが、三上さんの場合はどこからどこまでを担当されていらっしゃるのでしょうか。

三上:
アドテクノロジーの場合は、いろんなタイプのデータを、いろんなところから集めてきて分析する必要があるので、スズケンさんが手がけるような「前処理」の重要性が高くなりますよね。アクセス解析の場合は、解析に使うデータ、発行されるクエリの内容、結果の出力方法などがある程度決まっているので、それらを考慮しつつ、できるだけ前処理をしなくても済む設計をしておくというやり方になってきます。

後藤:
それは、アクセス解析のサービスだと、どこでもある程度同じようなメトリックスを出しているということですか。独自性のある分析結果を出すことが差別化要因にはなりにくいということなのですかね。

三上:
PV や UU のような指標は、基本的にどこでも一緒になりますよね。ただ、これらに加えて、ユーザーローカルの場合は、ページのどの部分が注目されているのかを見せる「ヒートマップ」や、アクセスしてきたユーザーの属性分析、アクセス元の企業情報など、独自のデータを付加した解析結果を提供することで特色を出しています。

後藤:
独自といえば、ユーザーローカルでは最近「人工知能チャットボットAPI」というのを発表されましたよね。三上さんは、こちらにも関わっておられるんですか。

三上:
主導しているのは、社内の別のエンジニアになります。チャットボット自体が「セカンドライフ」のようにずっと流行っていくものなのかはわかっていないんですが、会話に飽きられない、楽しめるものができれば、企業などのエンゲージメントを高めてくれるものになるんじゃないかと思っています。

「CTO」として試行錯誤でチーム運営の最適解を模索中

後藤:
三上さんの、社内における現在の立場は「CTO」でいらっしゃるんですよね。この役職に就かれたのはいつからですか。

三上:
実は、いつそういう立場になったのか、あまり正確に覚えていないんです(笑)。入社当時のエンジニアは数人で、みんな個別に開発を進めている感じだったので、あまり「チーム」を意識する必要がなかったんですね。ただ、エンジニアが10人を超えてくると、以前からいるメンバーは、自分が直接コードを書くよりも、メンバー間できちんと情報共有をしたり、進捗を管理したり、新しく有能なエンジニアを採用したりといったことに時間を割いた方がいいフェーズに入ってきます。そのタイミングで会社からも打診があって、そういう役割を果たすようになったという感じです。

後藤:
CTO になったことで、特に対外的な部分で変化はありましたか? 例えば立場や時間的な理由で、情報発信や情報交換がやりづらくなったとか。

三上:
むしろ、CTO になったことで、そのあたりでの情報発信も積極的にやらなければと思うようになりました。

意見交換については、幸い多くの方とのつながりがあるので、実際に CTO の経験がある方に話を聞きに行ったりしています。

後藤:
CTO業務の師匠は、そのあたりの方々ということになりますね。

三上:
提供しているサービスの内容も、会社の規模もそれぞれに違いますので、聞いたことをそのまま適用するのは難しいかもしれませんが、自分達の場合はどうかをその都度考えて取りいれていきたいと思っています。

後藤:
三上さんは、学生時代にもサービスの運営などを手がけられていたわけですが、10名超のエンジニアがいるところで、それぞれの成果をつなげてサービスを動かしていくという仕事には、また違うノウハウが必要になると思うんですよね。そうした部分は、どうやって学ばれたのでしょうか。

三上:
本を読んだりもしていますが、実際のところ、現場での試行錯誤がほとんどです。これからも継続して学んでいかないと駄目ですね。

後藤:
先ほど出てきたクックパッドの「3つの輪」を、開発チームの運営にも生かしているという感じでしょうかね。

三上:
そうですね。ただ、今後は個々のキャリアについても、考えていく必要があるだろうと思っています。これから、エンジニアも個人として「差別化」の戦略を考えていかなければいけない時代になってくると思うんですよ。

例えば「Ruby」もコミッタークラスになると違いますが、昨今「ちょっと書ける」というレベルでは、もう市場的な価値って小さいですよね。自分で「得意」だと自負しているだけでなく、他のエンジニアと相対的に比較して「得意」と認められるレベルなのかというのは意識する必要が出てきていると思います。

さらに、それを仕事でやっていくとなると、自分の「得意」なことを「ユーザーに届く価値」と結びつける必要があります。「速く作れる」ことは何らかの形で価値につながる可能性もあると思うのですが、では「キレイなコードを書ける」ことはどうかというと、ユーザーの価値としてどうつながるのかを説明できないといけないですよね。

まだ、実際にできているかどうかは分からないんですが、社内で働いているエンジニアがそういうことを意識しながら、自分の市場価値を高められる環境にしたいと思っています。

「300万でサーバを買えば数万人を楽しませることができる」(社長談)

後藤:
ユーザーローカルの場合、エンジニアがチャレンジしやすい雰囲気というのはあるんですか。例えば、多少のリスクはあっても、成長を考えて、あえてそれほど得意でない部分をやらせるような。

三上:
何をもって「リスク」と捉えるかというのもありますけれども、クリティカルな問題が起きないようには注意しつつ、比較的自由にやらせてみるという雰囲気はあると思いますよ。

実際、自分が関わった中でも「ミスをしたら影響が大きいな」と思った部分について、社長(伊藤将雄氏)にお伺いを立てたら「まぁ、何かあっても、僕が土下座しに行くよ」と言われたことがあります(笑)。スジさえ通っていれば、経営が開発に何かの責任を取らせるような体制ではないですね。

後藤:
そこまで言われてしまうと、やるほうも「いい加減な仕事はできない」と背筋が伸びますね(笑)。エンジニアリングもやる社長ということですが、開発に関してあまりマイクロマネジメントをするタイプでもないと。

三上:
ユーザーに関わることに関しては細かく言いますが、実装方法などに関しては任せてもらっていますね。

元々、社長は学生時代に「みんなの就職活動日記(みん就)」を開発して、それを楽天に売却したという経緯のある人で、サーバを立てたりサービス作ったりすることが根っから好きなんですよ。

社長の発言で、いまだに印象に残っているものがあります。「もし、手元に300万円あったら何を買うか」という話の中で「300万円で高級車を1台買えば、1人の女性を乗せることもできる。でも、僕が300万円でサーバを数台買えば、数万人のユーザーを乗せて楽しませることができる」というのがあって。

後藤:
(笑)そのまま「ガイアの夜明け」か「カンブリア宮殿」のキャッチコピーになりそうな名言ですね。

三上:
社長がそんな感じなので、うちは短期的には利益に結びつかないようなことにも、割と積極的に手を出すんですよ。もともと「みん就」も、最初はそんなに流行らず、インターネットが広まる時代とともにユーザー数を増やしたサービスで、かなり長い間、自腹を切って運営していたと聞いています。ネットだと先行しておくメリットが大きいので「まず始めておくことが大事」という感覚があるんでしょうね。先ほど話が出た「人工知能チャットボットAPI」なども、そうしたフェーズにあるサービスです。

後藤:
なるほど。とはいえ、会社としてやっている以上、ビジネス上の判断というのはしなくてはいけないですよね。

三上:
そこは、すぐにビジネスになるか分からなくてもユーザーが集まれば続けるという風土があると思います。

後藤:
とりあえず「芽」となるものを数多く手がけて、その中から有望なものを育てていくというやり方なんですね。にしても、この規模の会社で、それができるというのはスゴイと思います。

三上:
僕自身、時々びっくりすることがありますよ。「え? こういうのもやっていていいんだ」って(笑)。

後藤:
「人工知能」分野にも手をつけておられますし、今後、予想もしなかったような面白いものが出てくる可能性に期待したいですね。

「多くのユーザーに価値を届ける方法」を考える中でキャリアができていく

後藤:
三上さんご自身の今後について聞かせてください。現在は、ユーザーローカルで CTO としてお仕事をしていらっしゃるわけですが、この先のプランのようなものはありますか。

三上:
かつては、エンジニアとして技術的な腕を磨くことを続けていくのだろうなというイメージを持っていました。ただ、実際に会社に入って、一緒に働く人たちの数が増えてくると、1人で何かやるよりも、チームとして全体で動く方が、より多くのユーザーに価値を届けられると感じるようになったんです。

今後のキャリアについても「自分が何をやりたいか」というより「多くのユーザーに価値を届けるためにはどうすればいいか」と考える中で、自然と形成されていくんじゃないかなと感じています。

後藤:
これまでもずっとそのテーマについて考えてこられたと思うのですが、その中で実際に新しく形成されたキャリア観はありますか。

三上:
僕が学生時代に強く影響を受けた方に、現在トレジャーデータの CTO をされている太田一樹さんがいます。当時から Hadoop に関する第一線のエンジニアで、研究の一環として、彼の手がけたシステムを使わせてもらったり、僕の論文のセカンドオーサーになってもらったりした間柄でした。就職先を決めるにあたっても、いろいろとアドバイスをもらっていたんです。

彼自身、OSS のコミュニティに深く関わり、エンジニアとしても超一級なのですが、その彼が「自分よりできるエンジニアは世の中に大勢いるから、彼らを活かせる役割になりたい」みたいなことを言っていたんです。

正直、彼のようなレベルのエンジニアにそんなことを言われてしまうと、僕なんかどうしようもないですよね(笑)。また、同じトレジャーデータのエンジニアの古橋君という人は同じ筑波大学の同期なんですが、学生の頃から OSS を作って有名になっていたりとかして、同い年ですが彼に技術では勝てないなとか思っていました。

それで僕自身も、だんだんと「自分の技術を磨く」ことだけでなく、「人が活躍できる場を作る」こともいいんじゃないか。そのほうが、より多くのユーザーにより高い価値を届けたり、より大きい影響力を持てたりするんじゃないかと思うようになってきました。

後藤:
チームでサービスを運営していくことに魅力を感じるようになってきたんですね。意地悪な聞き方かもしれませんが、もし大手から好条件でアプローチがあったとしたらどうですか。

三上:
実際には理想論かもしれないと思うんですけれど、僕は「僕にしかできないことをやりたい」という思いがとても強いんです。常にそのことを心に置いているのですが、あまり大きなところにいってもその中で埋もれてしまいそうな気がするんですよ。たとえば、今、もし Google に入れたとしても、自分がそこで世の中に出せるサービスのイメージが沸かないんです。それよりも、自分が作ったものを、よりダイレクトにユーザーに届けられる環境のほうに魅力を感じます。「やりがい」と言ってしまうと月並みですが「自分がいることで、変わってくる」場所に身を置いて、そこで何かをやっていたいという気持ちが強いですね。

後藤:
ちなみに、ユーザーローカルは、今採用はしているんですか?

三上:
もちろん積極的に採用しています。

後藤:
どういったことに関心のあるエンジニアと一緒に仕事をしたいとか、要望はありますか。

三上:
今欲しいという意味でいうと「ディープラーニングや機械学習の知識があるエンジニア」ですが、「きっちり設計して堅牢なシステムを素早く実装できるエンジニア」や「エンドユーザーの気持ちになって UI を作れるエンジニア」なども揃って良いプロダクトを作っていけるんじゃないかと思っています。

どのタイプでも共通して意識を合わせておきたいことは、エンジニアは技術的な課題に目がいきがちですが、むしろ大きな課題と感じるのは「いいサービスを作っても、それがユーザーを集められない」という状況である、ということですね。最終的に重要になるのは、その状況をいかに打破するかという点なのではと最近感じています。書いたコードが多少汚かろうが、それが動いてユーザーが使ってくれるものになるのであれば、そのコードは「エライ」んです。

僕自身も、学生時代や入社間もないころには、システムを作るにあたって余計なことまで気にしていたんですよ。例えば、後々ユーザーが増えてもいいようにと、ガンガンスケールできるようにきっちり設計したり。でも、実際にサービスを始めてみると、スケールさせる必要があるほどユーザーが集まらなかったりして(笑)。

機能についてもそうですよね。新しい機能を10個作ったとしても、そのうち、実際にユーザーが使ってくれるものは2、3個だったりする。最初から、それが分かっていれば、必要なものだけ作れるんですが、分からないので全部作らなきゃいけない、みたいな状況がありますよね。

後藤:
どこからも聞こえてくる悲鳴ですよね。自分なりの予想や期待というのは、得てして外れてしまうものですから…。

三上:
これって、うちのサービス開発だけでなく、世の中の一般的なビジネス全般にも当てはまる課題だと思うんです。ユーザーローカルが提供しているサービスは、アクセス解析やデータ分析を通して、より効果的なマーケティングの手段を提供するという、まさにこの課題を解決するためにあるものですが、それを必要と考えて使っていただいているユーザーの皆さんが現実にいらっしゃるわけです。この点からも、以前のようにモノが売れない時代に、どうすれば売れるのか、どうすればユーザーに価値を届けられるか、それを考えることが重要になってきていると感じます。

こういった問題意識を共有して、ユーザーに価値を提供することを考えていける、そういう人が入ってくれればいいなと思っています。

次回のインタビューは初の女性エンジニア

後藤:
では、最後にリレーインタビューのバトンを渡す方をご紹介いただきたいのですが。

三上:
元ディー・エヌ・エーで、現在は「セオ商事」でエンジニアとして働いている新多真琴さんを紹介したいと思います。

後藤:
新多さんとは、どのような御縁なのですか。

三上:
知り合ったのは勉強会です。音大卒なのにエンジニアで、技術自体よりもサービスとしてのテクノロジーが好きなのかなと印象があり、独特なキャリアも含めて、かつての上司である閑歳さんに近いところがあるんじゃないかと個人的に思っています。セオ商事というのは、元カヤックの瀬尾浩二郎さんが立ち上げた会社なんですが、瀬尾さんって、閑歳さんの旦那さんなんですよね。これまでのリレーインタビューは情報系のバックグラウンドがある人が多い印象で、違ったタイプの方のキャリアについての考え方などを聞いてみたいと思ってます。

後藤:
このリレーインタビューで、女性エンジニアの方にお話を伺うのは初めてですね。非常に楽しみです。本日は長い時間、どうもありがとうございました。

執筆:高橋美津



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