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多額の私財を投じ「タチコマ」の1/2サイズロボットを作り上げたハードウェアエンジニア - karakuri products 松村礼央 氏

この連載では、「Forkwell Jobs」の開発にも関わるフリーランスエンジニアの後藤大輔 (@idesaku) が、さまざまな企業で働くエンジニアとリレー形式で対談を行っていきます。

今回のゲストは、ロボットベンチャー企業「karakuri products」の代表取締役を務める松村礼央 (@reomatsumura) 氏です。

最近では「攻殻機動隊S.A.C.タチコマ1/2サイズ・リアライズプロジェクト」におけるタチコマの作者として松村氏の名前をご存じの方も多いと思いますが、ロボティクス・エンジニアとしての活躍は高専在学中からすでに始まっていました。
また、大学院卒業後に所属した「ユカイ工学」では、iOS、Web向けのハードウェア開発ツールキット「konashi」の企画・開発に携わり、BLE(Bluetooth Low Energy)に関する書籍を前々回に登場された堤修一さんと共同で執筆するなど、ユニークなキャリアをお持ちです。

今回のリレーインタビューは2部構成にてお届けします。

松村氏のこれまで経歴や、現在の事業として展開している「コミュニケーションロボットの社会実装」に至った過程、そこにかける思いなど、さまざまなテーマについてお話を伺いました。

執筆:高橋美津

大塚氏との出会いは「konashi」の Web対応構想がきっかけ

idesaku:
前回の大塚雅和 (@mash) さんからのご紹介で、今回は、karakuri products の松村礼央さんにお話しを伺います。今日は、お時間をいただきましてありがとうございます。

reo_matsumura:
よろしくお願いします。

idesaku:
前回の大塚さんは、IRKit を完成させるために、会社を辞め、私財を投じて取り組んだところに凄まじい情熱を感じたのですが、松村さんは、その大塚さんが「自分よりぶっ飛んでる」人物として紹介してくださいました。

reo_matsumura:
いやぁ、自分では、大塚さんほど「ぶっ飛んでる」つもりはないのですが、大塚さんから見ると相当「やらかしている」ように見えるみたいで(笑)。

idesaku:
もともと大塚さんと知り合われたのは「ユカイ工学」時代だったとのことですが、その当時のことを、ご紹介いただけませんか。

reo_matsumura:
はい。自分は、2012年に大阪大学大学院基礎工学研究科の博士課程を卒業し、当時、奈良高専(奈良工業高等専門学校)時代の後輩がきっかけでユカイ工学に1年ほど務めていました。ただ、その後輩自身は僕が入ったタイミングではもうすでに辞めていたんですけれど(笑)。

ユカイ工学では「konashi」という iOS 向けのフィジカル・コンピューティングツールキットを企画しました。区の助成金を取って、その辞めて社外にいた後輩と東工大生二名と一緒に勝手に開発したものです。konashi はハードウェアを扱うアプリケーションを作りたいと思っているソフトウェアエンジニア向けに作っていたプロダクトで、自分たちの使い慣れた言語でアプリを書くと基板を通じてハードウェアが動かせるというものでした。

idesaku:
2012年当時だと、「Arduino」あたりにもすでに注目が集まっていましたね。

reo_matsumura:
アプリ開発者の間でも「ハードウェアを扱いたい」「ハードウェアベンチャーを立ち上げたい」といった雰囲気が急速に高まった時期でしたね。

konashi は、iOSアプリ開発者向けとして当初は Objective-C のみをサポートしていたのですが、 Web系の開発者にも使ってもらうことでさらに多くのユーザーに届けたいということで JavaScript もサポートするようになりました。

で、構想のひとつとして Web で JavaScript のコードを共有できる「jsdo.it」にコードを上げると、そこから konashi 側でコードを読み込んで基板を動かせるような連携ができるといいなと考えていたんです。そのことでカヤックのエンジニアさんと飲み会をした際に、jsdo.it を作られた大塚さんと初めてお会いしました。

大塚さんにはその後、Engadget 日本版が主催による konashi を活用したワークショップ「Engadget電子工作部」の時にも参加していただいて。大塚さんのチームは「シャカシャカぶらし」という子ども向けの IoT歯ブラシのアイデアを実装していました。これは、後に、そのアイデアを出したチームのマネージャーだった方が製品化されました(参考)。

idesaku:
大塚さんは「IRKit」以前からそうした形でハードに関わられていたんですね。あと松村さんは前々回にお話しを伺った堤修一さんとも共著で「iOS×BLE Core Bluetoothプログラミング」という本を出されていますよね。

reo_matsumura:
はい。堤さんはご存じのとおり iOS のデベロッパーコミュニティで非常に影響力のある方ですが、彼がブログでハードウェアをやりたい iOS開発者向けに、そのとっかかりになるツールとして「konashi」を紹介してご自身でも利用したり、あと LoftWork さんとの konashi のハッカソンにも飛び入り参加してくださったんです。それを見た編集者さんから声をかけていただきました。

iOSアプリから、BLE 対応機器と通信する際には通常 Core Bluetooth というライブラリを使うのですが、konashi はそのラッパーとして機能するので Core Bluetooth 自体の詳細を意識しなくても実装が可能になっています。本では、iOSアプリの開発経験しかない人が、まず konashi を触り、実際にハードを動かすところからスタートして、最終的には大塚さんのようにハードの製品化を目指せるレベルで BLE を扱えるところまで、段階的にステップアップしてもらえるようなものにしようと考えていました。

idesaku:
あまり、ほかに似たような本がないですよね。ソフト側の経験しかない開発者が、BLE を使って何かを始めたいというときには、必携の一冊になっていると思います。

reo_matsumura:
僕としては iOSアプリの開発者にとってなじみのないハードウェア側の知識をできる限りかみ砕いて易しく説明しようと意気込んだのですが、その結果、一部の読者の方からは「かみ砕きすぎ!」「本が厚すぎる!」などの厳しいご批判もいただきました。

idesaku:
どのレベルの読者をターゲットにするかというのは、どの分野でも常に難しいテーマですね(笑)。

高専の「からくり同好会」が今に続く「ロボット」の原体験に

idesaku:
松村さんについては、最近のお仕事として話題になった1/2サイズ「タチコマ」の人としてご存じの方も多いのではないでしょうか。今回は、松村さんがそこに至るまでの経歴についても、詳しくお伺いしたいと思っています。最初に「ロボット作り」を手がけられたのは、高専時代になるのですか。

reo_matsumura:
はい。NHK で放送されている、いわゆる「高専ロボコン」(アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト)に出場するためのロボットを作っていました。出身校は奈良高専なのですが、ちょうど僕が入った年に「からくり同好会」(現在は「からくり部」)という、ロボコン出場を目的としたロボット製作の同好会ができたんです。

会の立ち上げは、前年に実際にロボコンに出場した有志の4年生の先輩方によるものです。技術継承を目的に設立したと聞いています。というのも、私の9代ほど前の先輩方に「神がかった」技術とセンスを持つ人たちが有志で集まり「StarKing」というロボットで出場しました。このロボットが「準優勝」と「ロボコン大賞」(その年で特に高い技術力とアイデアを持つロボットに与えられる賞)をダブル受賞して伝説になった一方、「奈良高専は有志のメンバーでもここまでできる」というのを悪い意味で受け継いでしまって技術継承が途絶えていました。その状態を変えていきたかったそうです。

僕はその「からくり同好会」の1期生になります。現在の社名である「karakuri products」もそこに由来しています。

idesaku:
高専に進まれて、なおかつ設立間もない「からくり同好会」に入られたということは、それ以前から工学やロボット作りに興味があって将来的には仕事にしていきたい、という思いがあったのでしょうか。

reo_matsumura:
そうでもないんですよ。たしかに理数系は得意で好きでもあったのですが、特に工学系やロボットをやろうと昔から思っていたわけでもありません。

実は、僕に高専に行くことを勧めてくれたのは中学時代に通っていた学習塾教室の先生だったんです。勧めてもらう前はむしろ美術教室とかに通って美術系を志していました。

idesaku:
面白いですね。その美術教室には、どういう経緯で通われていたんですか。

reo_matsumura:
僕の父方の家系が美術系で。その流れです。ただ、教室に通ううちに自分は将来、美術を仕事にしていくのは難しいかなと思うようになっていました。その美術教室ではどちらかというと評論的なことに重点を置いて教えてくれたのですが、そういうことがあまり自分には合わないなと思っていましたし。

idesaku:
中学生に美術の評論を教える塾って、具体的にどんな感じなんでしょう。どのあたりが合わないと思われたんですか。

reo_matsumura:
合わないと思ったのは、抽象的な作品を作って評論をするようなプロセスですね。例えば、水に絵の具を垂らしてできた模様を紙などに写し取る「マーブリング」という手法があるんですけれど、マーブリングの作品を作り、それで自分の内面を説明する、とか。偶然の産物でも「それが良い」と思って選んだ作品には自身の何かが反映されているはず。で「それが何か」ということです。ただ当時は「そんなの分かるわけない、偶然の産物なんだから」という思いが強くて、ちょっと好きになれませんでしたね。

idesaku:
たしかにそれは大変そうですね(笑)。

reo_matsumura:
後から思うと、それはそれで抽象的な自身の考えを論理的に説明するのを訓練する大事なカリキュラムだったと思うんですけどもね。

その当時、自分が好きだったのは素材から形があるものを作る彫刻などの「工芸」でした。工芸はある程度価値が決められているという意味で職業にすることも可能なのですが「職人」という価値は将来的な衰退が避けられない気もしていて。自分はどの方向に進めばいいか迷っていたんです。

すると、その時通っていた学習塾の先生が迷いを察してくれて「手に職を付けたいなら、高専に行くという手もある」と教えてくれたのが奈良高専に進むことになったきっかけでした。

idesaku:
「美術の方向性で迷っているのに高専進学を勧められる」という流れは、一般的に珍しいのではないでしょうか。人生、何がきっかけになるか分かりませんね(笑)。

reo_matsumura:
今では、あの頃に美術についてきちんと勉強させてもらったことは良かったし、自分の重要な一部になっていると思っていますよ。

idesaku:
「ロボティクスエンジニアリング」は、いろんな技術や研究分野、文化の境目に位置しているジャンルのようにも思います。「工芸」や「アート」に関して学んだことは、その意味でも役立っているということですか。

reo_matsumura:
うーん、もし作品(つくったロボット)が完全に「アート」に位置付けられるのであれば、結局、それは物質的に世の中の役に立つものになっていないという意味で、僕が今やっていることのイメージはちょっと違いますね。

個人的な考えですが「アート」は「思想的に役立つもの」というイメージがあって「物質的」ではない。別に「アート」として「物質的に世の中の役に立たないもの」をロボティクスでやるのはいいと思うんです。それができること自体が「豊かさ」ですし。でも前回の大塚さんもおっしゃっていたように「世の中を良くするためのエンジニアリング」を僕もやりたいので。自分にとっては「物質的に役に立つ」という点もやはり重要ですね。

その意味では目指すロボティクスエンジニアリングの形は「物質的に世の中の役に立つもの」と「思想的に役立つもの」を、その両輪を捉えつつ、どう社会に実装するかということを常に意識しています。その点にはたしかに「アート」と「工学」が不可分な部分はあると思っています。

石黒研究室で知った「コミュニケーションロボット」が転機に

idesaku:
今、松村さんが取り組んでいらっしゃるのは「コミュニケーションロボット」の開発だと伺っているのですが、そもそも、ロボコンを目指してロボット開発を始められてから、「コミュニケーションロボット」に至るまでの道筋はどのようなものだったのでしょうか。

reo_matsumura:
高専時代には工学的なこととかあまり難しいことを考えずに、ただただ楽しくてロボットを作っていましたね。卒業が近くなると「からくり同好会」は引退することになるのですが、その後もロボットを作って、競技に出すことを続けたいという気持ちがだんだん強くなっていきました。マイクロマウス、二足歩行ロボットといったあたりであれば、自己資金でも何とか競技に出続けられるだろうと思ったんですね。それが2003年ごろのことです。

その頃に大阪にある「ヴイストン」というロボットベンチャーにインターンとして参加させてもらい、その後、腕を見込んでいただけて研究開発チームに配属されました。ヴイストンでは産学官合同チーム「Team OSAKA」を組織して世界的なロボット競技会である「ロボカップ」に参加したり、ホビー用のロボットを開発したりしていました。そこでヴイストンの経営顧問である大阪大学の石黒浩先生に会いました。

idesaku:
石黒先生といえば、「マツコロイド」などの人間にそっくりなアンドロイドの開発研究で有名ですね。

reo_matsumura:
ええ。高専生活も終わりに近づいていたころに「卒業後もロボットについて突き詰めていきたい」という希望を話していたところ声をかけていただいて、石黒研究室に入ることになりました。僕は主に「ロボカップ」向けのロボット開発に関わっていたのですが、石黒先生ご自身の専門は「ロボットと人間のコミュニケーション」でしたので、そこで今自分が取り組んでいるテーマに初めて触れた感じです。

「ロボカップ」に向けたロボット開発で自分がやっていたことは「ロボットで世界をどう認識するか」の研究で、石黒先生が専門にしているのは「ロボットを通じて、人間にどうアプローチするか」の研究、という違いがありました。

idesaku:
「ロボットを通じて、人間にアプローチする」というのは、かなり難しそうなテーマですね。

reo_matsumura:
やっかいな部分が多いのはたしかですね。石黒研究室では僕も少しずつそちらのテーマに関わるようになり、博士課程に移るタイミングで石黒先生が研究員として所属していた ATR(国際電気通信基礎技術研究所)の知能ロボティクス研究所に石黒研のメンバーとして参加し、ロボットの新規開発をしながら論文を書くことをやっていました。

idesaku:
コミュニケーションロボットの「robovie-mR2」を作られたのはそのころですか。

reo_matsumura:
そうです。ATR では、テレコミュニケーションを専門に研究しているのですが、その中でも知能ロボティクス研究所は「物理的な身体をメディアとする」テレコミュニケーションについて扱っています。

idesaku:
「物理的な身体をメディアとする」というのはどういうことでしょう。

reo_matsumura:
人間の身体を模したロボットに「2本の腕」があると、この腕を動かすことで人間同士でやるようなコミュニケーションが可能になります。例えば、周囲がうるさいところで相手に話しかけたい時に片手を自分の口もとに近づけて、もう片方の手で手招きをすることで相手に自分のそばに寄ってきてもらうということをしますよね。このように人を模した身体があるから可能な、人とのコミュニケーションスタイルがあるのです。身体というメディアを通すことで相手に伝えられる新たな情報があるわけです。

「ロボット」という存在を社会に実装するときには、この「人とのコミュニケーション」をどう設計するかを周到に考えておかないとうまくいきません。そのために、人同士が当たり前のように行っているコミュニケーションのひとつひとつにどのような意味があるのか、それをどう応用すればロボットの普及につながるのか、などを考えていくことが、知能ロボティクスの研究分野に含まれます。

idesaku:
技術的な部分だけでなく、人間側の文化や心理など、知らなければいけない対象は広範なのですね。

ここまで、松村さんが「コミュニケーションロボット」に至るまでの経緯について伺ってきましたが、やはり専門は、そうした研究の成果をもとにロボットを「作る」ほうだという理解でいいのでしょうか。

reo_matsumura:
自分自身はどちらかというと「作る」ほうが得意だと思っています。でも自分が今やっている「ロボットが社会に普及するためのインフラ作り」のようなことを実現しようとすると、技術だけをやっているわけにもいきませんので、研究もしますし、メディアに出て多くの人に自分のやっていることについて「伝える」ことも必要になります。自分が得意な分野だけを掘り下げるというより、必要であれば広く浅くでも、いろいろなことをやってしまうというのが自分のクセでもありますね。やらなくて済むのであれば、それに越したことはないのですが(笑)。

「ランボルギーニ1台とちょっと」の私財を投じて「タチコマ」を作った理由

idesaku:
2016年に起業された「karakuri products」は、現在松村さんと、取締役の方の2人でやっていらっしゃるのですか。

reo_matsumura:
はい。これまでいくつかのロボットベンチャーにいた経験からも、軽々と人を増やすのは悪手と思ってます。ハードを扱うロボットベンチャーの場合、ソフトウェア開発などと比べて、イニシャルでかかるコストが格段に大きいです。まず、その初期投資で抱えるリスクの壁を越えないと次の段階に進めないという厳しさはあります。私も壁を越えることができたら一緒にできるパートナーを見つけて勝負をかけてみたいなという思いはありますね。

idesaku:
ちなみに「攻殻機動隊S.A.C.タチコマ1/2サイズ・リアライズプロジェクト」は、karakuri products でのお仕事になるのですよね。

reo_matsumura:
現在はそうですが、昨年の段階ではまだ個人事業主としてやっていたんです。そこまではすべて自己資金でやっていました。

idesaku:
え? マジですか! あれ、製作委員会などから出資を受けて作ったんじゃなかったんですか?

reo_matsumura:
いいえ。全部持ち出しです。版権も個人で買っていますから(笑)。あとは協賛いただいた企業様からの現物支給をありがたく頂戴して実現しています。ロボットの設計もほぼ1人でやっているので、人件費も1人分で済ませました。細かい作業は優秀なバイトさん数名に手伝っていただいています。あと、昨年度に実店舗にタチコマを置いた実証実験をやっていますが、あれも経済産業省の「ロボット導入実証事業」として認めていただき、導入を行う店舗に国側から補助が出るように調整し、ようやく可能になりました。自分で事業内容の企画書を書き、それを持って店舗を運営している会社さまや版権元の会社さまに許諾を取りに伺わせていただきました。

idesaku:
それは意外でした。あれだけ話題になったのに、全部持ち出しだったんですか…。

reo_matsumura:
実証事業では、お客さんが自分だけのタチコマをスマートフォン上で育成できる「バーチャルエージェント・タチコマ」というアプリを作って、そこで得たデータを店舗にいる1/2タチコマ(「リアルエージェント・タチコマ」)に送るということをやりました。このアプリはカヤックに作ってもらったのですが、それも……。

idesaku:
持ち出しだったんですね。わかります(笑)…ちなみに、どのくらいかかりました?

reo_matsumura:
「全体」でならランボルギーニが1台半くらいですかね。

idesaku:
…なるほど。大塚さんが「ぶっ飛んでる」と言った理由が、今分かりました(笑)。

reo_matsumura:
いやでも、これは決して高くないと思うんですよ。ちゃんとした研究所で世界的に優れた頭脳を集めて研究なり、実証事業なりをやろうとしたら1年ごとにウン億円単位の予算が必要になるのが普通です。だから研究所長は、きちんと国なり企業なりに研究の意義を説明してそのためのお金を集めてくるわけですよね。

今回、僕がやりたかったことのひとつは「ロボットと人とのコミュケーションに、版権物のキャラクターコンテンツが持つ力を利用する」ことだったのですが、こうした試みは、学術的な「研究」としては取り組みづらいんです。であれば実証事業として自分でやるしかない。むしろ、それをランボルギーニ1台ちょっとくらいの持ち出しでできるチャンスがあるなら、やってみたいと思ったんです。

idesaku:
版権物を使うと「研究」にはなりづらいのですか。

reo_matsumura:
どうしても結果の「汎用性」というか「一般性」が低くなってしまいますからね。研究結果から導き出される知見は、一般に汎用性が高いものほど根源的な基本問題を扱っていて価値があると思っています。版権物を使うとその「前提条件」との要因を切り離すのが難しいかなと。まぁ僕が論文を書くのが下手、という点が大きいんですけど。

ただ僕は ATR に行く前から「鉄人28号」などの版権物キャラクターを作っていたこともあって、そうしたキャラクターのマーチャンダイズが持つ力を実感していて。普通にロボットを作っても売れないけれど、誰もが知っているキャラクターコンテンツを利用すれば売ることができる。キャラクターの力は人とロボットとのコミュニケーションにおいても強い力を発揮できると思っていました。でも、研究としてやることは自分には難しい。なら、フリーランスになって自分で版権を買ってでもタチコマを作ろうと思ったんです。

idesaku:
でも、いくらお金を積んだところで、普通、なかなか個人事業主に対して版権許諾は出ませんよね?

reo_matsumura:
それについては偶然も味方しました。実は10年ほど前にも僕は公式でタチコマを作ったことがあったんですよ。「攻殻機動隊S.A.C. SOLID STATE SOCIETY(S.S.S.)」の発表会イベントでお披露目される10分の1スケールくらいのタチコマだったんですが、その制作依頼が「RoBoHon」や「EVOLTA」などの開発で知られるロボットクリエーターの高橋智隆さんのところにきたんです。当時から高橋さんと僕は「王様と奴隷」みたいな関係で…。

idesaku:
「師匠と弟子」ではないのですね(笑)。

reo_matsumura:
ええ。「王様と奴隷」です(笑)。

その高橋さんが、以前僕がタチコマについて熱く語っていたのを思い出してくれて、実際の制作を僕に任せたんです。その時のタチコマについては、今でもパッケージに付属している特典映像の中などで見られるのですが、その S.S.S. の発表会イベントを担当されていた方が今、Production I.G の役員になっておられるんですよ。そういったつながりもあって、過去の「実績」を知っていただいた上で個人でありながら版権を買うことができたという経緯になります。

idesaku:
なるほど。奴隷のような経験も、どう役に立つか分かりませんね(笑)。

そういったエピソードを伺うにつけ、松村さんは自分の思いを形にしていくためなら、金や労力面での苦労を惜しまない方なのだなぁという印象を強くしています。

reo_matsumura:
うーん、自分にはまったく苦労しているという意識はないですよ。いわば、自分の作りたいでっかいプラモデルを、思いどおりに作っているみたいなものですから.(笑)。

後編へ続く

次回、松村さんがリレー相手としてご指名するエンジニアは…?



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