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「成長は、アウトプットによってのみ成し遂げられると思います」森川晃(ariaki、株式会社メディアドゥ)~Forkwellエンジニア成分研究所

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新規・既存事業をコンサル的立場で支援しています

ーー当連載では初出となりますので、メディアドゥさんの業務内容について伺えますでしょうか。

森川 弊社は99年創業で、当初はガラケー向けのパケット通信料削減システム「パケ割!」を手がけ、その後ガラケー向けに様々なジャンルの「着うた」配信サービスを開始しました。ただ音楽配信業界でシェアを伸ばすのは難しく、会社をさらに成長させるためには新しい事業が必要だということで、2006年に電子書籍配信の事業を始めました。現在は、それが主軸事業となっています。

私たちが構築したのは、電子書籍取次のシステムです。出版社からコンテンツをお預かりして書店に卸す、紙の書籍で行なわれているプロセスの電子版ですね。去年3月に、当時業界1位だった出版デジタル機構を2位のわれわれが買収してグループ化し、業界最大手の取次事業者になりました。電子ならではの性質を生かして、「ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人へ」をビジョンに掲げています。

ーー取次というのは金銭的な部分の仲介や、配本のようなものを含めた作業になるのでしょうか?

森川 著作権料は、各書店さんからわれわれがお預かりして著作者様にお支払いするという流れになります。コンテンツについても出版社さんから弊社がお預かりし、我々が管理する「md-dc」と呼ばれる配信サーバーから各ユーザーにお届けするという形になります。

ーーその中で、森川さん自身の業務内容はどのようなものなのですか?

森川 電子書籍事業が始まった2006年当時はコンテンツ管理システムを作り、それを10年ほど続けていました。去年から違う部署に移りまして、新規事業を立ち上げたり、本部のいろいろな事業のIT戦略をサポートしています。

ーー「スマート書記」という事業にも携わられているんですね。

森川 去年10月からですね。新規事業開発の一環として、音声を自動文字起こしできるツールの開発を手がけました。実証実験として徳島県庁さんで使っていただいたのですが、そのプロトタイプを私が作ったのがきっかけです。文字起こしをしている最中にリアルタイム編集できる機能が特徴です。音声認識によって間違いはどうしても出てしまうのですが、その間違いを簡単にチェックし、後で編集しやすいインターフェースになっています。

具体的には、間違いのある箇所が自動的にマーキングされ、後から該当箇所を再生しながら修正できることで、これまで1時間半程度の会見の文字起こしに約10時間かけていたものが約1/5程度の時間でできるようになったという事例もあり、大幅に工数が短縮される可能性が示唆されました。そうした流れで、「これは他でも使える」ということになり商品化するに至りました。

ーー個人的に、今すぐほしいです(笑)。

森川 現状は法人が対象なので個人の方に対してはまだ販売できていないのですが、今後は販売を検討しています。実は自前で音声認識を作っているわけではなくて、グーグルさんとかのシステムを使っています。弊社は、インターフェースの部分をきっちり作っているんですね。

現状、会議の場で全員の声を拾ってしまう問題があって、それは今のシステムでは解決できません。なので、マイクをどうしていくかが課題です。将来的には人の声の判別もできるといいのですが、そこは現時点では他社の技術頼みです。

ーー徳島県庁さんに導入されて、成果はいかがでしたか?

森川 まず、情報公開までの時間短縮については先ほども触れたとおりで、大変好評を頂いています。また、徳島県庁のホームページに「AI要約サービス」というアイコンがあるのですが、そこには当社の関連会社「エーアイスクエア」の技術が使われており、こちらにも多くの反響がありました。たとえば「50パーセント」で要約すると、半分に要約された記事を読むことができます。句点で区切られた文章ごとに抽出しているので、全体としては多少違和感もありますが、重要なセンテンスがピックアップされてわかりやすくなります。ユーザーアンケートでも9割以上が「役に立った」ということでした(参照)。

ーー様々な業務に携わられているんですね。

森川 開発もしますし、現在は「事業戦略室」という部署に所属して本部内のさまざまな新規・既存事業をコンサル的立場として支援しています。技術者としては手を動かすところからは離れつつあるんですが、事業そのものを横断的に見て、エンジニアの目線を通していろんなサービスをより良くしていくということをやっています。

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一つのシステムを草創期から衰退期まで見られたのは、大きな経験です

ーー森川さんは高校生の頃からフリーソフトを開発され、累計数十万DLにまで達したとのことですが、どんなソフトを作られていたのですか?

森川 テキストエディタ、アプリケーションランチャー、暗号化ソフトなどを作っていました。1996から2001年くらいまでやっていましたね。

ーーそもそも高校生で開発を始められた理由は、どこにあったのでしょう?

森川 高校に入ってパソコンを買ってもらったのですが、当時はネットの世界も狭くて。いちいちソフトをダウンロードしないといけないし、そもそもソフトの選択肢が少なかったです。例えば表計算ソフト1つを取ってみても今ならGoogleのスプレッドシートなど様々な選択肢がありますが、当時はマイクロソフトのものしかなかったり、非常に高額でした。「じゃあ、自分で作ればいい」となったのがきっかけですね。

ーー当時は今のように情報はなかったかと思いますが、開発ノウハウはどこで仕入れたのですか?

森川 Windows 95が出たばかりの頃は定番のVisual Studioを使っていたのですが、難しくて一旦挫折しました。その後、Delphiっていう開発環境が出てきたので使ってみたところ、これはすごいとなって。ウインドウにボタンを配置したら画面として出てきて、クリックなどのイベントも簡単に書けて。高校生ながら、お小遣いをはたいて買いました。

でもアップデートがあるのでどうしようかと考えて、「これはソフトを売ったら買えるかなぁ」と(笑)。当時は売る、というより使っていただいたユーザーさんからから善意でいただく形でしたが。

ーー制作には、どれくらいの時間をかけていたのですか?

森川 かなりの時間がかかっていますね。一つの製品として成立するくらいになるまで作り込んでいたので。学校が終わったらまっすぐ家に帰って、夜に開発して。土日も暇があればやっていました。全部独学で、本当にわからないことは掲示板で聞いたりしました。基本は、Win32 APIの英語のドキュメントを見て、公式マニュアルを見て、あとは分厚い本を買って勉強していました。

ーーすごいですね…当時の経験は、今のお仕事に生きているのでは?

森川 「何かを作るのは面白い」という気持ちは、今につながっていると思います。使う言語も当時とは違いますし、デスクトップアプリケーションを作っているわけではないですし、全然同じ仕事ではないんですけども。

ーーその後、大学では経営学を専攻されたんですね。

森川 私はもともと商業科の高校出身で、経済学の基礎・会計の基礎などをトータルで勉強する中で「経営戦略を深く勉強したい」と感じたんです。結局は技術者になることを選択したのですが、「ビジネスと技術を軸にできたら」と思って現在の職業を選択し、今も継続的に学習しています。

ーー新卒時にはどのようなお仕事をされたのですか?

森川 大学では自分で学費も生活資金も稼ぐ苦学生だったので、就活ができなかったんです。卒業したての頃、「とりあえず何か仕事はないか」と思って知人から紹介されたIT系の会社で働き始めたんですが、そこはかなりきつい職種だったのですぐ転職しました。それから2002年夏に、Web系のモバイルの事業をやる会社に入りました。

そこは着メロとか占いなどのサイトを作る中で、ゲーム事業を始めたんですね。コンサルの人が適当にコンサルをして(笑)シナリオライターを捕まえてくるんですが、こちらでシナリオも作らないと回らないので自分でシナリオを作り、編集し、作曲し、ゲームのUIを設計し、パラメータを調整し、ドット絵を描き、プログラムを書き、Webサイトを作り、ユーザーサポートも行い……とフルスタックでやっていました。その経験は、今も生きていると思います。

ーーまさにフルスタックですね…! そして、2005年から現職のメディアドゥさんに転職。それから、約14年勤め続けられています。これは、当連載に出演いただいた方の中でも最長のケースに入ります。

森川 長く勤めたことで一番大きいのは、一つのシステムを草創期から衰退期まで見られたことですね。電子書籍を始めた2006年にシステム責任者として入り、10年近く携わりました。いろいろなものが台頭しては衰退する業界で、息の長いシステムを見られるのはすごく幸せだし、他ではない機会だったと思います。

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今年は「登壇ドリブン学習」に心血を注ぎました

ーー業務を行なう上で大事にしている言葉やモットーはありますか?

森川 「Build Something Amazing」です。私個人の名刺にも記載しており、勉強会でも発表資料の裏表紙に書いたりします。自分で作った言葉でして、「何か素晴らしいものを作り続けたい」という思いを表現しています。

業務で手を動かすことは減ってきていますが、開発者・エンジニアとしてずっと面白いものを作り続けたいです。エンジニア目線を失わず、「作る人」の視点でビジネスにアプローチできる人間になりたいと思っています。

ーーこのことは、いつ頃から意識されているのですか?

森川 結構最近ですね、1年くらい前から意識しています。それより前は、「人間が想像できることは、必ず実現できる」でした。目の前にある製品やサービスは、すべて誰かが「あったらいいな」と想像した結果できたもの。想像して、考えて、思いつくことは大事だということで標語にしていました。

ーーご自身の成長のために、日々行っていることはありますか?

森川 今年は「登壇ドリブン学習」に心血を注ぎました。もともと高校・大学の頃に暗号化ソフトを作っていたこともあり、セキュリティに興味があって深く学びたいと思っていました。中でも、OSのセキュリティがどこでどう実装されているかに興味があり、稚拙ながら「自分でOS作ってみたら勉強できるんじゃないか」と思って作ってみようと。

ただ、きっかけがないと真剣に取り組まないですよね。なので「builderscon 2018 tokyo」というカンファレンスに応募し登壇することを決めて、勉強の速度を上げました。

――やはり、目標が定まったら勉強もアウトプットの精度も上がりますよね。

森川 自分がどうなりたいのか、自分の人生とは何かを考えて、目標を細かく切って実施し、振り返る。それによって連続性が生まれ、進むことができます。目標が間違っていたとしても、次に改善できればいい。

成長は、アウトプットによってのみ成し遂げられると思っています。「NLP学習の五段階」では、「人に教えられる状態」が最も深く理解している状態と言われています。また、脳の構造上、何かとひも付けた記憶は長期間残りやすいので、「アウトプットすること」が最も効率的です。

登壇をすることで「学習をして伝える」ところまででき、「最も深い理解」に到達することができます。実際、勉強会での登壇はエンジニア界隈では流行しています。人に教えることで自分自身も成長する、という側面もありますから。

初心者に伝えることで熱量を感じてもらい、モチベーションを上げて勉強してもらい、その勉強によっていずれその人が登壇する、というサイクルが生まれたらと思っています。そういうことを企図して、社内での勉強会も開催しています。

エンジニアの成長は、コミュニティ全体で支援していくもの

――ここからは、森川さんが働く上で大切にしていることについて、「事業内容」「仲間」「会社愛」「お金」「専門性向上」「働き方自由度」の6つの項目から合計20点になるよう、点数を振り分けていただきます。

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・事業内容 5

「興味があること」が一番のエンジンになります。興味のないものにはやる気が起きない。事業が魅力的である、または事業を自分で面白くしていけるということが重要だと思っています。

・仲間 5

事業は、1人でなし得る事はできません。会社を見渡して「この人しんどそうだな」「不満ありそうだな」という状態は改善していきたいですね。私は全てのエンジニアが幸せになるべきだと考えています。エンジニアの幸福度が増えればパフォーマンスや成長率が向上しますし、イノベーションが生まれやすい環境になるので。

・会社愛 2

会社の魅力は、すなわち事業と人の魅力です。メディアドゥっていう冠は重要じゃなく、「この事業を通じて自己実現したい」とか「この人と働きたい」と思える環境に身を置き続けたいと考えています。

・お金 4

生活基盤を支えるために、お金は非常に重要です。苦学生だったこともあり、身にしみてお金の大切さを感じています。給与面で悩んでいると思うようにパフォーマンスも出せないため、悩まず集中して仕事ができる程度の給与は必要だと思います。

・専門性向上 3

成長し続けられる環境に身を置きたいと考えていますが、IT的な専門性かというとそうではないですね。現在は、ITの専門的な知識に集中するというよりは、マネジメント・論理的思考・デザインなど広くいろいろな事を学びたいと思います。

・働き方自由度 1

うちの会社はそこまで自由な会社ではないのですが、自身の自由度を上げるよりも、いかに成長できるかという点を重視しています。これまで自由な働き方をしてきていないし、現状も必要としているわけではないですね。今後、ライフステージが変わっていくことによって変化する可能性はあると思います。

ーー最後に、キャリアに迷っているエンジニアにメッセージをお願いします。

森川 先程お話ししたようなアウトプットによる成長を支援するため、「エンジニアの登壇を応援する会」というコミュニティを今年の8月から始めました。ビジョンとして「全てのエンジニアに成長と幸福をもたらす」、そしてミッションとして「アウトプットを促進する」という指針を掲げています。

目指す理想像に近づくための成長戦略をまずは描いてもらいたい。それが実現するために努力する人をコミュニティとして支援したいと思います。具体的には、登壇の際のスライドの資料のチェックだったりリハーサルの機会を提供したりしています。何かしら執筆をするとなったときそれなりの査読をするということもやっています。Slackで日常的なコミュニケーションをしているんですが、アクティブだけでも50人以上のメンバーがいて、トータルでは150人を超えており、毎日多くのコミュニケーションが生まれています。また、技術的な相談や人生相談、キャリアの相談も受け付けています。

エンジニアの成長というのは、エンジニアが一人で孤独に考えるものではなく、コミュニティ全体で共有して支えあって支援してやっていくものだと思います。どうか一人で迷わないでほしいと思います。

「恩送り」という言葉がありますが、コミュニティから恩を受けて次の世代に返していくという考えがあります。それが繰り返されることでコミュニティ全体が幸せになっていくのだと思います。

<了>

ライター:澤山大輔


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